病気やケガは治ったのに、あるいは思い当たる原因がないのに、いつまでも痛みが続く。
しかし、病院でレントゲン検査などを行っても異常なしと言われる。そんな「慢性痛」の原因の一つが、局所に発生した微細な血管網「もやもや血管」だと考える医師が出てきた。
慢性痛に対し、血管にアプローチする新たな治療法も成果を上げつつある。
近年、慢性痛の研究が進み、その治療を目的とした「痛みセンター」などを設置する医療機関も増えてきた。従来、慢性痛の原因としては、ケガや病気で傷つい た神経が原因の「神経障害性疼痛」、痛みを感じる脳の働きが変化することで起こる「中枢機能障害性疼痛」などがあるとされてきた。
【原因不明の痛みが続く慢性痛】
慢性痛とは
ケガや病気が治った後も痛みが長期期間続いたり、原因不明の関節痛(肩こりを含む)や頭痛などで悩まされる症状
■典型的な痛みのタイプ
- 痛みにしびれた感じが伴う
- 痛み発作が短い間隔で現れる
- 針で刺すような痛み
- 痛みで気分が落ち込む
など
【これまで考えられてきた慢性痛の原因と主な治療方】
■脳の痛み(中枢機能障害性疼痛)
不安やうつが痛みの感覚を助長してしまうことも。
抗うつ薬や抗てんかん薬などが治療に使われる。
■神経の痛み(神経障害性疼痛)
ケガや病気によって起きた神経の障害がもたらす痛み。
最近、新薬も登場するなど治療法は進歩している。
■局所の痛み(存在が明らかではなかった)
局所の炎症などは見つからないことが多かった。
もやもや血管へのアプローチが新たな治療法を切り開く。
これに対し「局所で起きている変化へのアプローチが不十分だったのでは」と考えているようです。
がん医療に携わっていた際に、新しく発生した微細な血管(新生血管)にカテーテルという細い管を通して薬剤を届けて血管をつぶす治療を施すと、多くの患者 が「痛みが楽になった」というのを聞いた。そこで慢性的な肩やひざの痛みで悩む人の局所の血管を血管造影で調べてみると、痛みのある部分に綿花のように細 かく枝分かれした新生血管「もやもや血管」が発生しているケースが多数でみられた。
【なぜ、もやもや血管が痛みの原因なのか。】
炎症が引き金になり、体内で血管が伸びると、同時に神経も伸びる。この増えた神経が痛みの主な原因。
血管はレントゲンには写らないので、これまでは分からなかったのだ。
痛みの発生部位を明確にとらえることで、従来の治療法の有効性も高まる。
例えば、ステロイド注射は肩やひざの関節に漠然と打つより、もやもや血管がある場所を狙って打つ。ひざの痛みなどに使われるヒアルロン酸注射も、同様のアプローチで効果が上がるそうだ。
■血管治療で効果が期待できる症状
- 四十肩・五十肩などの肩の痛み
- 股関節痛
- ひざ痛
- ひじ痛
- 手・足の痛み
など
■もやもや血管の治療法
- もやもや血管へのヒアルロン酸やステロイド注射
- カテーテルで、もやもや血管をつぶす
最近は大学病院の痛み治療の専門家も、こうした血管への治療に興味を持ち、数多くの臨床研究が始まっている。
いくつかの医療機関が2015年内に導入を検討中だという。