深い呼吸、腹式呼吸などがよいという話はよく耳にしますが、正しく実践するためのコツをご紹介します。
人間はふだん特に意識せずに息をしていますが、鼻や口から空気を吸って酸素を体に取り込み、二酸化炭素(CO2)をはき出すのが呼吸です。
個人差がありますが、無意識でしている呼吸は平均すると1分間に15回程度。寝ている間も含めて1日では約2万回、人生を80年とすると一生では約6億回、呼吸する計算になります。
【腹式呼吸について】
呼吸を担う臓器である肺は心臓などと異なり、スポンジ状のため自力では動かせません。
周囲の筋肉が一緒に動き、呼吸をしています。その中で特に重要なのが、ドームの形をした筋肉である横隔膜の働きです。
息を吸うときは横隔膜が下がって、内臓に圧力がかかり腹が膨らむような形になります。息を吐くときは内臓が横隔膜を上に押し上げます。
これに適した呼吸法が、腹を膨らませたりへこませたりする「腹式」です。胸を大きく広げて息を吸う胸式呼吸に比べ、横隔膜が上下しやすいです。
【腹式呼吸によって得られる効果】
特に息を吐くことを重視しながら腹式呼吸で深くゆっくりと呼吸すると、自律神経のバランスを整える効果が得られます。
この結果、脳内で気持ちを落ち着かせる物質の分泌が促され、精神の安定につながります。
自律神経の一つである副交感神経にはリンパ球を増やす作用があり、病原体から身を守る免疫力を高める作用も期待できます。
腹式呼吸の利点はそれだけではなく、腹部の血液の流れや排便の調子もよくする効果も見込めます。
一方、速いペースで呼吸すると、体内の酸素や二酸化炭素のバランスが崩れ、筋肉の硬直、しびれなどの影響が出る恐れがあります。
【腹式呼吸法のポイント】
どうやれば腹式で深くてゆっくりとした呼吸が身につくのか、ふだん胸式で呼吸している人も多いので、腹式のコツをつかむ練習をご紹介します。
まず、落ち着ける場所で椅子に座ってやります。まず腹を膨らませて鼻から深く息を吸う。次に約10秒かけてゆっくりと鼻から出す。すぼめた口から吐いても構いません。
息を深く際は3秒程度で吸い、2秒程度息を止め、約10秒かけてゆっくりと吐き出します。これを5分程度続けます。
上手にできない人は床にあおむけになり、足を椅子などの高い場所にのせます。尻の下には座布団やクッションを敷き、両手は腹部に置きます。この体勢なら内臓と横隔膜が一緒に動く様子が分かり、自然と深い呼吸になります。
この練習法をほぼ毎日やって、みぞおち周辺の筋肉に力みが出ないで息を吐けるようになれば合格で、椅子でもうまく腹式呼吸ができるようになります。
筒に込めた矢を吹いて的に命中させる「吹き矢」なども腹式呼吸を身につけるのに向いています。
疲れを感じたりストレスがたまったりした際にこの呼吸法を実践すれば、効果が期待できます。夜寝る前や起床時なら横になったままでもよく、手軽に心身をリフレッシュしやすいです。
【注意点】
無理に息を吐き出そうとすると気分が悪くなるケースがあります。
また、猫背のように丸まった姿勢で呼吸をすると、横隔膜が十分に働かず、腹が圧迫されて胸式呼吸になりやすくなります。
ふだんから鼻で息を吸うよう心がけることも大切です。口呼吸では浅く速い呼吸になりやすく、喉の粘膜が乾燥して細菌が侵入する危険も高まります。
鼻呼吸なら空気中のほこりや細菌などの侵入を防ぐとともに、湿度や温度の調節にもいいです。